平安の頃―
恵みの雨を祈る五土(いつち)家では、九月の決められた三日間に、
女当主になる娘の結婚のための儀式が行われる。
母のあとを継がなければいけない沓子(とうこ)は最後の儀式の前に、
選ばれた場所である古い屋敷の柳の下で不思議な「女」と出会った。
初恋を奪われ、「家」と「仕来たり」に囚われる自分の立場を嘆く沓子に、
女は甘く誘う…
冷たい川の中、女から沓子を救ったのは、
源博雅(みなもとのひろまさ)の笛だった。
すべての始まりは遠い昔、博雅が愛した女と、救われなかった女、
そして博雅を助けるために女を傷つけた陰陽師、
安倍晴明(あべのせいめい)が生み出したもの。
愛されない「女」たちの想いが荊の棘のように絡まりあい、交錯していく。
薫るのは荊の花か、怨念の香か―
時を越えて再び重なり合う様々な人々の想いに、
今、雨が降り落ちる…